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極私的プロレス観戦論

パイプ椅子の使い方   前編

プロレスの凶器と言えばパイプ椅子だ。

パイプ椅子は誰でも並べて座ったことがあるなじみの深いイスだ。

なじみが深いだけにそのイスで人を殴ると観客には痛さが伝わりやすい。

これが外道のメリケンサックだとプロレス会場に足を運ぶ市民には縁遠い。

それでオカダを殴ってもどれだけ効いているのかわからない。

オカダの効いたよという証言を信じるしかない。

しかしオカダの顔は殴られた割にはきれいである。

外道の腕力が弱いか、あのメリケンサックはゴム製ではないかという疑念は常につきまとうのである。

一方でパイプ椅子は今の今まで自分の体重を支えていたものだからどのくらい頑丈かはわかる。さらに場外乱闘では目の前でイスを使うのだから臨場感はハンパない。疑いの挟む余地はない。リアリティではパイプ椅子に勝る凶器はない。

イスがプロレス凶器のスタンダードになって30年以上になる。他のイスとは比較にならない進化を遂げ、いまだにその歩みを止めていないパイプ椅子の使用方法を考察してみたい。

 

①イスの座る部分で相手の背中を叩く。

 

この使い方のメリットは何回も使用できるところだ。

大きな音も出るし連打できるので観客にもわかりやすい。

殴られた方は海老反りで悶絶。

腰を殴打されるとしびれて立てなくなる。

鈴木みのるがヤングライオンを毎回叩いている光景は新日の風物詩となっている。

オールドファンにとってパイプ椅子の原風景はジプシージョーだ。自分の身体をイスが壊れるまで殴らせて強靭さをアピールした。

 

②イスの座る部分を相手の頭に振り下ろす。

 

脳天をイスの座る部分の真ん中で叩く。

見た目は座る部分が外れ天高く飛んでいくので派手だ。

一回のパフォーマンスでイス1つ粗大ゴミになる。

コスパは非常に悪い。

それに加えて受ける方の頭と首の頑丈さと使用者の高度な振り下ろし技術が必要である。

下手にずれてパイプが頭に当たれば大惨事となる。

大怪我と紙一重の難易度の高いイスの使用方法だ。

受け手も動かず首に力を入れて頸椎にダメージを負わないような姿勢を取ることが重要だ。よほどの信頼関係がなければ自分の頭をイスで叩かせないだろう。

江戸時代の山田浅右衛門のように熟練の腕を必要とする。

一昔前は頻繁に見ることができた光景だが新日マットではあまりお目にかかれない。

どのくらいのスピードと腕力があればイスの座る板があんなに飛んでいくのだろうか。それなりの体重のある人が座っても抜けないように作っているはずだから

相当の衝撃が頭とイスにかかっているのは明白だ。

あまりに見事な時はあらかじめネジを外して取れやすくしているのかと勘ぐりたくなるほど日常では絶対に見ることができないシーンだ。

新日ではレアなシーンなのでその瞬間を目撃したら目を背けずスタンディングオベーションで2人をたたえよう。

 

 この脳天をぶち抜くイスの使い手としてはイス大王こと栗栖正伸をおいて他にはいない。イス攻撃のパイオニアである。見た目はハゲた中年オヤジそのものだがそのファイトスタイルとナチュラルな肉体は凄みの塊だ。

初期のF M Wでイス大王としてブレーク。

この頃ナガサキも参戦。大仁田と後藤にはこの2人はさすがに荷が重かった。

強いのなんの。2人とも筋金入りの喧嘩屋だった。

その後、新日にUターンしてイスを振り回した。

強すぎて大仁田が嫌がったというエピソードもある。

栗栖の出世試合が有名な橋本戦だ。

栗栖が振り下ろしたイスを橋本が左手で払い試合開始早々骨折。

栗栖橋本戦はユーチューブで見ることができる。

金沢氏の解説は秀逸で、見てない人は是非一度視聴することをお勧めする。

 

③パイプの部分でつく。

 

誰もが気軽にできるから実演機会を目にすることは多い。

折りたたんだ時の持ちやすさは抜群だ。

つくのは上半身である。たまに首をつくこともある。

膝を痛める時も有効だ。その際は背の方を使うことが多い。

レスラーは責める場所に合わせて使用部分を使い分けていることがわかる。

折りたたんだ状態の使用方法だと壊れることも少ないので使用後は組み立てられてまた客席へと復帰する。イス、凶器、イスと環境に優しい再生型凶器と言える。

デスペラードがヒロムを攻めたイスにまた座るというのもライブ観戦の醍醐味である。

折りたたみパイプ椅子は会場設営には欠かせないので必ずリングの近くにある。折りたためばすぐに凶器として使用できる。大きさも重さも振り回すのにはジャストサイズだ。遠くの席からもよく見えるから反則行為をしていることをすべての観客に伝えることができる。

飯塚のアイアンフィンガーと比べるとパイプ椅子の凶器として特化した利便性がよくわかる。

イスなので自分で持ち込むことなくレフェリーのチェックを受けることがない。場外なら場所を選ぶことなく使える。移動するたびに持ち歩く必要がない。

レフェリーに取り上げられても代替品がいくらでもある。

アイアンフィンガーやサーベル、フォークのようにレスラー特許がない。

こうしてみるとパイプ椅子にかわる凶器は皆無である。

凶器シェア、ナンバーワンであることがよく理解できる。

 

追記

イッテンゴで早速、タイチが内藤にイスを振り下ろした。

イスの座るところが見事に宙を舞った。

タイチにためらいが全く見られなかった。

久しぶりに目にした脳天ぶち抜きだ。

それにしても首をかなり鍛えてなければ受けきれない。

受けっぷりもさすが内藤とうなるしかない。