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極私的プロレス観戦論

物語を持たない2人の決勝

飯伏とジェイ  

物語を持たない2人の顔合わせになった。

 

途中入社ながら棚橋と中邑の名代襲名の飯伏

ライオンの血をひく生え抜きであり棚橋、外道のお墨付きのジェイ

 

表現はベビーとヒールで反対だが根っこは同じで向いている方向も同じ。

この2人の間に観客の感情が入る隙間はない。

今日あるのは勝敗以上のものはない。

憎々しげなジェイを負かすか。

どちらが初優勝か。

 

2人とも残念ながら「物語」を持っていないし自分から編み出すことができない。

 

そのいい例が飯伏の変貌ぶりだ。

飯伏はケニーがいないと物語にならない。

そのケニーがいない彼は他者の力を借りて物語をまとう。

棚橋中邑を神として祀り自分から憑代になった。

鍛え上げた空洞の肉体に棚橋中邑を降ろす。

かくして初の憑依レスラーの誕生となった。

観客はそこに全盛期の棚橋と存在しない中邑を見る。

オリジナルにこだわる他のレスラーなら拒否するだろう。

しかし

何も持たない彼にとっては好都合であり、彼に何も見出せず応援したいが何をどう応援したいか戸惑っていた観客も着地点を示され安心して声援を送ることができた。

応援しようにもケニーとの恋では無理があった。

 

キャリアの浅いジェイにはオリジナルのストーリーはない。

 

彼の物語は外道の物語だ。

たけしプロレス軍団、邪道外道、冬木軍、スーパージュニア、オカダのマネージャー

新日本のマッチメーカー、オカダへの裏切り、乱入、セコンド。

実はジェイへのブーイングは外道へのブーイングに他ならない。

ジェイもまた端正なマスクとシックスパックの中身は空洞だ。

飯伏と違い誰かを降ろすことを選択せず傀儡師外道のもとでオカダに次ぐ傀儡レスラーとなった。

そういえばオカダの傀儡からの脱却の過程が中身が空の風船だったのは暗示的ではあった。

 

憑代  対   傀儡

彼らのオリジナルの物語は存在しない。

 

これがオカダ対後藤だったら観客は存分に物語を語れたろう。

内藤だったら、決勝が終わるまで語っても語り尽くせない時間を過ごすことができたろう。

 

飯伏が優勝すれば今まで以上に狂的に神降しに熱心になりリング上でさらなるトランス状態を見ることになるのか。

 

ジェイが優勝して人形から人間になるスタートを見ることができるのか。