パイプ椅子の使い方 EVIL編
叩く、つく。
これ以外の使い方を発明したのがEVILだ。
折りたたまれたイスを相手の首にかけてそのまま鉄柱にぶつける。
見た目はアメフトのヘルメットのガードのようだ。
直接額を鉄柱にぶつけるのではなくパイプがぶつかるのでやられた方は
ガードされて安全である。
遅れて背の部分が首の後ろに当たるのでそのダメージはあるだろう。
同じく首にぶら下げたイスをスイングしたイスで打つ。
通称イービルホームラン。
これもどこにダメージを狙ったものかわからない。1番痛そうなのは顔の頬骨あたりだ。ほぼ全員がやられた後、痛そうに抑えている。顔の横にダメージを加えることがその後の展開にどう影響するのかわからないが首ではないことは確かだ。打った瞬間首のイスも回転するから首へのダメージは皆無であろう。
パイプ椅子も座る、折りたたむ、叩く、つく、に加えてさらに進化した使用方法にパイプ椅子冥利に尽きるというものだ。
こうしてみると見た目の派手さの割にはどちらもダメージはさほど無さそうだ。
しかしこの使い方の最大のキモは他にある。
従来のイス攻撃は対象が人であった。イス対人。
EVILのそれはイス対鉄柱またはイス対イスだ。
攻撃した際、金属音が会場に響く。
この金属音は人間が苦手とするものであり一説に寄れば扁桃体に刻まれた太古の記憶が原因かとも言われている。
黒板や窓ガラスを引っかくキーという音も同じだ。
パイプが鉄柱にぶつかったりパイプとパイプがぶつかるのは見ているだけで生理的に拒絶反応が起きる。
観客はその音が聞こえようと聞こえまいと彼がパイプ椅子を手にした瞬間、扁桃体にスウィッチが入り身構える。
その攻撃の痛さが実感できなくても観客は攻撃を受けたレスラーを扁桃体で過剰に煽られた脳で視る。
EVILがイスを使う時、会場の空気が一瞬凍りつく。
それは扁桃体の最深部の記憶が呼び起こされ観客は否が応でも大型捕食者から逃げ惑うヴィジョンを見させられているからだ。
まさにダークネスワールドへと観客は突き落とされる。
身体的ダメージは少ないかもしれない。
しかし扁桃体へのダメージは大きいのがEVIL式パイプ椅子使用方法だ。
おそらく毎回イスを使うEVILの扁桃体にも相当なダメージがあるだろう。
相手と観客は変わるが使い手は変わらないからだ。
毎夜自分自身が悪夢に苦しんでいるのかもしれない。
そのためだろうか。最近あまりこの技を多用しなくなった。、
この使用方法は今のところEVILしかやらない。前回レスラー特許がイスにはないと書いたがオリジナリティーが突出しているからEVILが特許を取ったのだろう。