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極私的プロレス観戦論

ヒールという名の劇薬

プロレス界で絶滅危惧 I種  に近い存在。

それがヒールだ。

実際に確認できるのは飯塚が最後の1人である。

別名  リング上のロンサム ジョージ

クルマをバットで破壊した頃の狂気はもうない。

この10年で毒が抜けてしまってはいるが現役最後のヒールだろう。

ヒールがヒールを維持できる期間は短い。

 

現役を退きヒールの面影を伝えるレスラーも年々少なくなっている。

アラビアの怪人  シーク

ミスターポーゴ  

日本人で初めて金髪にした上田馬之助 

はすでに鬼籍に入った。

 

現役レスラーはゼロだが

ジェイホワイトがここに名を連ねることになるのか。

彼の方向性はまだ見えない。

 

そもそもヒールが全盛を誇ったのはいまから40年以上も前のことだ。

ほぼ同時期にシンとブッチャーというヒールレスラーが日本マットに出現したのが日本のヒールレスラーの始まりだ。

 

カリスマ   キャラクター   チャーム   この3つのCを兼ね備え絶大な観客動員力を誇りメインイベンターとして所属団体に多大なる貢献をして全盛期を過ごしたレスラーは過去に4人しかいない。

新日本のタイガージェットシン

全日本のアブドーラ ザ ブッチャー

FMWのミスターポーゴ

全女のダンプ松本

4人とも団体のエースと血で血を争う血みどろの戦い絵巻を繰り広げた。 

観客の憎悪をこれでもかと煽り、ダーティファイトで観客はもちろん相手レスラーの神経さえも逆なでし激怒させ、ありとあらゆる罵声怒声罵詈雑言悲鳴阿鼻叫喚をその背中に受け続けた。ブーイングはまだまだ予定調和。

場内を凍らせるほどの静寂を作り出すのが真のヒールだ。

 

どこまでがプロレスでどこからが私闘なのか全く見当がつかない。

フォークでえぐり、サーベルで流血させ、火炎で火傷を負わせ、命の髪を丸坊主にした。

ヒールとの契約はサタンの契約に等しい。

 

ヒールが展開するプロレスは感情の沸点が通常より低くなる。

ヒール  エース  ファンはマグマのような激情に支配されるから精神的な疲労度は高くなる。

レスラーの身体的ダメージは10年もつ身体が1年ももたないほど蓄積されていく。

ヒールであることは強靭な覚悟がいるのだ。

そしてその強烈なキャラクターゆえにファンから飽きられるのも早い。

飽きられたヒールの末路は物悲しく滑稽だ。

 

 こうしてある時期隆盛を極めたヒールは、その後ハンセン、ブローディ、ホーガン、ベイダーら肉体そのものが凶器のレスラーに駆逐されていく。

ハンセンはダーティファイトなしで猪木を追いつめる。

ブローディはニードロップ一発で鶴田を沈める。

凶器と場外乱闘  流血なしで十分に会場を熱くする。

この時を境にヒールは絶滅への道をたどることとなる。

悪玉から凄玉へパラダイムシフトが起きた。

 

ヒールの登場はその団体に劇薬ゆえに大きな利益をもたらす。

 今この劇薬を1人のレスラーの対角線に立たせてみたい。

 

全日本の宮原だ。宮原に史上5人目となるヒールをぶつけてみたい。

絶対的ベビーフェイスの宮原しかその相手は務まらない。

無名のレスラーなら日本人、外国人は問わない。

ハングリーさとトップを取る野心があればいいのだ。

できれば猪木シンのようなシナリオを描いてほしい。

今のままでは新日次代のエース候補海野の後塵を拝することとなろう。

宮原が棚橋の後継者になるためには同じ道をなぞっても飯伏のポジションが

関の山。

棚橋にはいなかったヒールというライバルが必要だ。

 

すでに新日がジェイホワイトに長年空き家であったシンのポジションを与えた。

全日本もそろそろいい頃合いだ。

ジェイホワイトが闘魂ショップのモデルとしてかわいい笑顔をみせているこの機会に

リアルヒールを作り出せば団体浮上の突破口となろう。

 

ヒールというポジションが消えて久しい今こそこの劇薬を飲み込んでみてはいかがだろうか。