パイプ椅子の使い方 最終回
過去二回にわたり考察してきたパイプ椅子。
今まで列挙した以外にも使い方はあるが
今回で最後にしておくのでどうかお付き合い願いたい。
イスを投げる。
相手に向かって投げる。リング上に投げいれる。
どちらも直接相手を狙った行為ではない。
しかしワールドタッグ戦では相手を狙って投げたシーンが見られた。
それはタマ組対バレッタ組の試合で起こった。
このタッグリーグ戦では、なぜかバレッタの親友チャッキーが、まさにその名の通りチャイルドプレイのチャッキーよろしくいきなりキレて鬼の形相になる。
イスをこれでもかと使い反則負けになることを繰り返している。
この行為に関して公式アナウンスはないしバレッタ以外言及する者もいない。
これがキャラ作りの一環なのか本気で見境いがつかなくなっているのか今のところよくわからない。
そしてこの試合でもキレた。
パイプ椅子をほうり投げる。イスで叩く。
ここまではいつものチャッキーキレ芸なのだが、問題のシーンはこうだ。
手にしたパイプ椅子をあろうことかタンガ ロアに投げつけたのだ。
イスが飛んで来たら誰でも逃げるかかわすかすだろう。
だって当たると痛いから。
しかしタンガは逃げなかった。
不動の姿勢で真正面からイスを受け止めたのだ。
それも顔面で。
イスは跳ね返りマットに落ちた。
タンガは何事もなかったように次のアクションへ移った。
ただし額だか頭から血を流して笑みさえ浮かべて。
その後も欠場することなく決勝で戦いイッテンヨンも出る。
どれだけ頑丈なんだろうか。
顔面で受けるなんてどれだけ馬鹿なんだろうか。
久しぶりにレスラーのトンパチぶりを見せてもらった。
タンガは我々が思っている以上に凄いレスラーではないだろうか。
マイパイプ椅子を作ったレスラーもいた。新日では矢野が赤いイスを携帯している。
矢野のイスはいつもコーナーに置いてあり使用する機会もない。
アクセサリーとして使用しているようだが矢野のことだから風水的に置いてある可能性も否定できないだろう。
風水では赤いイスを南に置くとパワーアップするという。
赤コーナーに赤いイスを置いて南の方角になる会場の矢野ならベルト奪取もあり得る。運勢アップとして赤いパイプ椅子を型どったグッズの商品化を切に願う。
もう1人マイパイプ椅子を持つレスラーがいる。パイプ椅子と大仁田も避けては通ることはできない。
罵声、怒号 が飛び交う禁煙の東京ドームの花道で黒いマイパイプ椅子に座り煙草をくゆらせた。
パイプ椅子を見れば誰もが思い出すプロレス史に残るワンシーンだ。
2016年のイッテンヨンでは特製パイプ椅子プレゼントもあった。マイ特製新日パイプ椅子を所持しているファンもいるわけだ。なかなか粋な計らいだ。
最後にパイプ椅子の本当の正しい使い方を紹介して締めくくる。
正しい使い方。
それは、「座る」 ことだ。
目の前にパイプ椅子があればすぐさま折りたたみ攻撃の手段にしたくなるのがレスラーの性だ。
ところがイスをイスとして正しく使っているレスラーがいる。
内藤だ。
試合後、リング下でイスを広げて座って相手のマイクを聞く。
試合後、相手が投げ入れたイスをきちんと広げてリング上で座って相手の挑発を聞く。
ダメージを与えるイスを自分のダメージの回復に使う。
新日マットに脈々と受け継がれる猪木の雨垂れの発想そのものだ。
パイプ椅子を設営したスタッフも感動しているに違いない。
きちんと使ってくれている。彼らもイスを人に危害を加えるためにそこに設置したわけではない。本来の目的とはかけ離れた使い方に心を痛めていたはずだ。
やっと本来の使用方法で使ってくれたレスラーがいた。
会場マニアの内藤だからこそできる設営者の気持ちをくみとる使用方法だ。
内藤のイスの使い方にはこれ以外にも大きな意味がある。
イスに座ってレスラーを見る。この行為は我々観客が会場でしていることだ。
これこそお客様目線。
内藤はレスラーでありながらイスに座りお客様目線でイチプロレスファンとして
ジェリコやみのるの行動を観戦しているのだ。
みのるが吠える時、オカダが挑発する時、内藤はリング下でイスに座りファンと同じ場所からそれを見ている。
その時内藤は観客席と同化している。
自然と観客は背を向けた内藤の目を通してリング上を見ることになる。
無数の視線が内藤の目を通して1つになる。
アブレ ラ オホ 目を開く。
魂を集めるソウルエッジとのコラボは象徴的でさえもある。
道具とは正しい使い方をした時その威力が最大限に引き出されることを我々は
内藤の使い方から学ぶことができる。
イスの使い方もプロフェッショナルである。
追記
ジェリコとの調印式でもイスに座るように促す。
イスの使い方を世界でいちばんよく知っているレスラーである。